今日から8月。保育研究所主催の地方議員セミナーに参加しました。今回のテーマは「待機児童・保育士不足問題と地方行政」です。6月県議会の代表質問でも取り上げたテーマだけに、朝から夕方までみっちりと勉強しました。


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はじめに保育研究所の逆井直紀さんから保育をめぐる状況の変化と制度・政策の動向について。2015年にスタートした子ども子育て支援新制度ですが、当初狙われていた市町村の保育実施責任の解除や認可保育所をすべて総合こども園に移行することは修正されたものの、認定こども園や小規模保育など地域型保育の枠組みが作られました。また保育の必要性についての認定制度や保育時間(標準・短時間)の区分も導入され、従来の制度と新たな制度が併存する形になりました。


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逆井直紀さん


待機児童数の増加にも関わらず、新制度開始後の2年間で保育所数は23533ヵ所から23410ヵ所へと減少しました。一方、認定こども園と地域型保育は28783ヵ所から32793ヵ所へと大きく増加しました。さらに市町村が関与しない企業主導型保育も加わり、より複雑でわかりづらい制度になりました。


来年度は新制度実施5年目の見直しの年に当たります。政府は2020年までの待機児童解消を掲げますが、その柱は企業主導型保育の推進や自治体独自の基準を緩めて子どもを詰め込む規制緩和です。これでは子どもたちや保護者の願いに応えることにはなりません。


その反面、議論されている保育料の無償化については基本的に3歳児以上が対象で、給食食材費など実費徴収されている費用の取扱いは今後の課題として先送りされています。国では国家戦略特区の枠組みなどによる新たな規制緩和も狙われており、保育の質が犠牲にされる危険性が大きいと言わざるを得ません。


続いて講義を行った猪熊弘子さん(ジャーナリスト・名寄市立大学特命教授・東京都市大学客員教授)は、より具体的に待機児童解消を名目にした国の規制緩和策を告発しました。


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猪熊弘子さん


政府が推進する企業主導型保育について、自治体職員も「知らないうちにできていた」と驚く実態があったり、事業者自身が「誰も施設を見に来なかったのにインターネットで申請したら補助金がおりた」と話すなど制度のあり方が批判されています。国の抜き打ち調査の結果でも大人用の便器しか置いてなかったり、消火器の使用期限が切れていた、職員の健康診断が実施されていなかったなど多くの劣悪な施設が混在しています。待機児童解消ありきで保育の質の確保を後回しにしてきた国の責任が問われています。


猪熊さんは最も大切なのは諸外国で言われているように保育士の配置基準の改善だといいます。多くの自治体で上乗せ基準を適用しているように、日本の保育士配置基準は世界に比べても立ち後れています。特に3歳児の20:1、4~5歳児の30:1という基準は先進国最悪だと批判しました。


その後保育研究所所長の村山祐一さん(元帝京大学教授)に続いて、蓑輪明子さん(名城大学)から保育士の処遇改善について現状と打開の方向が話されました。


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村山祐一さん

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蓑輪明子さん


この間の安倍政権の保育政策は女性の労働力を活用するための政策であり、保育の量的拡大に主眼が置かれています。保育士確保策についても賃金引き上げが中心となっており、配置基準の改善など業務改善は置き去りにされてきました。


しかしそもそも賃金もこの間下がり続けており、2000年と2015年を比べてみると、55歳~59歳の方は596万円から406万円に、45歳~49歳の方は485万円から366万円へと100万円以上も下がっています。


この間の処遇改善策によって上がっているものの、2000年代の賃金低下を上回るほどではありません。蓑輪さんは愛知県で行った保育労働実態調査の結果に基づいて問題点を明らかにし、賃上げはもちろん労働時間の削減や業務抑制に手をつけることがどうしても必要だと強調しました。


根本的には国の配置基準の引き上げが必要ですが、「保育最賃」など労働法を活用した処遇改善策も重要です。業種・職種別最低賃金を定めている野田市の公契約条例についても紹介がありました。


様々な角度から保育を取り巻く現状と今後の進むべき方向が明らかにされた学習会でした。全国3位の待機児童数となっている千葉県でこそ生かしていきたいと思います。